Sion




普段見る那由汰とはどこか違う。




「奏…くん…」




「強がりだって分かってる。なのに…関係が終わったことに少なからずホッとしてる自分がいる。…最低だよ」




恋はどうしてこんなにももどかしいんだろう。
どうしてみんなが幸せになることはできないんだろう。




幸せになる一方で誰かが傷ついてる。




「最低…じゃない…です。奏くんは…とても…優しいです…」




那由汰の優しさを希愛はちゃんと感じている。
優愛に対して何も言えなかったのは、傷つけてしまう気がしたから。




分かっている。分かっているから…
自分を責めないで欲しい…と希愛は思った。




少し小さく丸まった背中を後ろからぎゅっと抱きしめた。




「…奏…くん、好き…です。だから…悲しそうな顔をしないで…」




那由汰の優しさが好きだった。
那由汰の笑みが好きだった。




< 207 / 303 >

この作品をシェア

pagetop