野良猫の飼い馴らし方。

あたしの声を遮って告げられた名前は、そう呼べという意味を含んでいるんだろうか。

「…。」

「誠哉。」

「…。」

「言え。」

だんまりのあたしに繰り返し名前を告げ、最終的にはそう言えと催促する相沢先輩。

…名前を呼べば、もしかしたら降ろしてくれるのかもしれない。

あたしは意を決して、口を開いた。





「…せ、や、先輩…。」





しかし先輩は、一瞬満足そうな表情を見せただけで、そのまま屋上を出ようとする。

…降ろしては、くれないらしい。

結局、さっき拭われた涙なんて意味をなさないほど、再び涙が溢れた。

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