メインクーンはじゃがいもですか?

 と、こんなやりとりが続き、次郎とすら会うことが無くなった葵は、アパートの隣近所に聞こうと思ったりもしたが、いかんせん葵とは生活する時間帯が違うので、すれ違うこともそんなになかった。たまにすれ違っても挨拶をする程度で取り立て話をすることもなかった。


 時間とは無情なもので、自分を入れてくれない霧吹邸に通いつめてカメラに向かって『いい加減入れてよー!』と怒りまくりながら半年が経過しても霧吹将権は帰ってこなかった。

 もうそろそろ卒業の季節になり、幼い頃から待ち続けている白馬に乗った王子様は、いまだに現れない現実と対峙する。

 二十歳も越え、こんな痛いことを言ってるのは葵くらいなもんだろうが、いつかきっと私の手を取って、

『君を幸せにします。僕と一緒になってください』

 という素敵な申し出が来ることを待ち望んではや、ん十年。


「だからさ葵、そんなもんいないから! いい加減諦めて次探そう! ね、その霧吹さんだっけ、その人もなんの音沙汰もないんでしょ? もう忘れな。若い時ってあっという間だよ! うだうだ引きずらないでさ、次行ったほうがいいって!」

 久しぶりに会うゆかりはもうなんか社会人の風格が出始めていた。
 そりゃそうだ。4年生にもなったら必須科目の講義も無くなり、卒論に終われるくらいだ。その間、時間の空いたときにはアルバイトを入れて小銭稼ぎをしていたんだから、一足お先にそんなかんじになるのも、分かる。

< 198 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop