メインクーンはじゃがいもですか?

『今日はどちらから学校に来られるんですか? 自宅からじゃないですねぇ』

 急に足を止め、口を覆う葵の背中に霧吹がぶつかった。その後ろに次郎もぶつかる。

「おい! なんで急に止まんだよ、危ねーだろうが。人は急に止まれないんだぞこら」

 何も言わない葵に次郎がどうしたものかと最後尾から声をかけるが、携帯の画面を凝視したまま動かない。

 携帯をひったくった霧吹は目を細めた。

 画面を覗き、顔をしかめ、意味がわからないとばかりに葵に視線を戻した。

「なんだこりゃ」

「……あの男です。たぶんどこかで見てるんじゃないでしょうか」

「んなことあるかよ。うちは中も外も監視カメラが丸っと盛りだくさんだぞ。猫の子一匹だって見逃せねー造りになってんだから、どっかから見てるなんて間違っても無理だ」

 霧吹が携帯を見たまま言う。

 霧吹邸は、さながら要塞だ。葵は実家も含めこんなに大きな家にすんだことがなかったため、霧吹の普通のうちを邸宅かなんかだと勘違いしている。

 外壁は分厚いコンクリートで固められ、四方八方には監視カメラ。有刺鉄線がグルングルンに巻かれ、そこには電流すら流している。

 中に入るにもいくつものゲートを突破しなければ入ることは出来ないし、いたずらにも侵入してこようとするイカサマタコサマ野郎には、容赦なく鉄拳が降り注がれるようにできている。

 家の中もそうだ。いたるところにカメラがついており、一括して確認できる、監視部屋も存在している。

 まぁ、霧吹邸と言ってもようは組事務所だ。

 若い衆が盛りだくさん居て、その生活を共にし、365日監視の目をひからせているってだけの話。

 そんなところに入り込める隙は、無いに等しい。

 いやむしろ無い。


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