メインクーンはじゃがいもですか?

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「あの、霧吹さんとさっきの修さん? は、なんでそうなったのか、やっぱり教えてはもらえないんでしょうか」

「なんでそんなにあの二人が気になるのかね?」

 将修はにたりと笑い、見えない二枚舌で唇を舐めた。

「いや、なんかすごいそっくりだし、あ、顔だけですけどね、兄弟かななんて思ったんですけど、昔そんなに仲良かったなら今のその状況はもったいないような気がして。なんか、その、わだかまりみたいなのは早いうちにほどかないとこじれてこんがらがっちゃう気がして」

「君は一人?」

「はい。兄妹もいないし、親もいません。小さい頃に両親は事故で亡くなったと聞いています。それから犬山の叔父さんに育ててもらったんです」

「ああ、そうだったそうだった。長いことこっちの世界に帰って来られないうちに何人かの親しい仲間は旅立って行ったんだが、その中にあんたさんのお父さんも入っていたっけねえ。すまんね辛いことを思い出させてしまった」

 ちょちょぎれる涙をシルクのハンカチで拭きまくる将修はかまわず鼻をかんでゴミ箱にハンカチを投げ捨てた。

 もうそろそろおじいさんの域の年齢のせいか涙もろくなってきていた。

「そうかそうか。そうだよねえ、それは大変だったなぁ。察しますよその心境。いろいろお辛いこともあったでしょうに」

 と、こんどは手鼻をかみ、さきほど捨てたハンカチを取り出して手についた鼻水を拭き、再度ゴミ箱に投げた。「いや、参った」と一声。

 そんな野兎を葵は眉を八の字にして眺め、『変なおじさん』という括りで頭の中にインプットした。

「実はな、」

 将修は、葵の身の上話に感情移入してしまい、いとも簡単に二人の昔話を暴露し始めた。

 話の内容のトッピング具合から言って、その舌は二枚なんかじゃなく、三枚も四枚もあるようにすら見えた。

 
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