Temps tendre -やさしい時間-
第2章 年末
 クリスマスの日、こずえは母の店の手伝い、その後も冬休みの宿題や家の大掃除であっという間に年末の朝になってしまった。

 その間に野中慎からの電話もメールもなく、こずえからも連絡はしなかった。

「ちゃんと生きてるよね、先輩」

 こずえは携帯を見ながらそう呟いた。

 その時、携帯にメールが来た音がし、こずえは思わずドキリとした。

『今夜初詣に行こう。除夜の鐘が鳴る前に稲荷神社前に集合 慎』

「先輩……」

 こずえは安堵した後すぐに緊張した。

「何着て行こう。どうしよう。なんで急にこうなるのぉ」
 
 バタバタと夜中のことを朝から気にして落ち着かないこずえは、ケーキを作ることで自分を落ち着かせようと考えた。

「その前に、まずは返事よね」

『了解しました。 こずえ』とだけ打って送信した。

「なんか業務連絡みたい」

 ふっと笑いが込み上げ、自然に鼻歌を歌いながらケーキ作りを始めた。
 
 カスタードクリームを鍋で温めながら作ると、粗熱を取って冷蔵庫で冷やし、生地もむらなく丁寧に混ぜ、絞り袋に入れオーブンシートの上に絞り出し焼いた。
 
 完成したのは「シュークリーム」。

 フランス語では「シュ・ア・ラ・クレム」。「シュ」はキャベツの意味。
 こずえは年明けには縁起がいい丸いものを、とシュークリームを作った。



 出来たシュークリームをケーキ用の箱にキレイに詰め終わると時間はお昼を回っていた。

 キッチンでお節料理を作っている母にこずえは言った。

「初詣に行くから、夜中いないけどいい?」

「あら、彼氏と?」と茶化した。

「友達よ。先輩と稲荷神社に行く約束したの」

「ふ~ん、わかった。気をつけていってらっしゃい」

「うん」

 部屋に戻ったこずえは、来て行く服をあれこれコーディネートしていると、あっという間に夕方になっていた。

「ヤバイ!決まらないよぉ~。でもコート着れば中は見えないし……」

 こずえは普段の服装に、ちょっとおしゃれなファーの着いたグレーのコートを合わせ、ハンガーにかけておいた。

 とりあえず落ち着いたので、携帯を見るとメールがきていた。

『集合時間変更 20時に駅裏の喫茶店「Temps tendre」で待つ 慎』

「なんて読むの? この喫茶店」

 こずえはこんな喫茶店があることを知らなかったが、とりあえず行けばわかると思い、返信した。

『了解しました。 こずえ』

 なぜだか、「よし」と気合を入れた。

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