注文の出来ない喫茶店【短編】
テーブルに着くや否や
男は先程の商談の資料を取り出す


忙(せわ)しげに、
資料を捲る音だけが店内に響く
男はまた、腕時計を見ると


「まだなのか?珈琲くらい直ぐに出せるだろ」


と、早口で捲し立てた
が、店の主は何も答えない


「おい、聞いてるのか?珈琲だけでも早く出せと言ってるんだ」


苛立ちを露(あらわ)にしながら、男が言う


「お客さん、何をそんなに急いでるんですか?」


漸く、主は声を出した
その穏やかな外見とは違い
低く、店内に良く響く声の持ち主だった




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