たった一つのお願い


「俺は三神――三神理央(リオ)だ」




いつもなら下の名前まで名乗らないのだが…何となく。ほんの気まぐれで言ってしまった。


俺自身、女みたい…というより女の名前で気に入っていない。


親が女の子が出来ると勘違いをしていて、男の名前を考えておらず…というベタな理由にいい加減な付け方で俺はこの名前を背負ったまま生きてきた。
理央だとバランスが良いとか後で散々言い訳されたが、知ったことではない。



この名前を素敵だの、可愛いだの言う奴は俺にはお世辞にしか聞こえない。素敵ならともかく可愛いだなんて男に使う形容詞ではない。


きっとこの子も似たようなことを言うのだろう。




「へぇー…先生にピッタリだ。じゃあ、理央先生って呼ぶね」




嬉しくない言葉。

俺の嫌いな名前なハズなのに。


何故か名前で呼ばれることが、ピッタリだと言われることが、嫌じゃない。


咄嗟にいつもみたく、笑顔を貼り付けた断りの言葉が出てこなかった。
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