ひとりぼっちの花




「ふふふふっ。」



「ご、ごめんなさい。」



口を押さえて笑うのは私が先ほど助けようとしていた女性で、全ての事情を聞いて、私の勘違いであったことを知り、恥ずかしい。



「いえ、笑ってしまってお許しなんし。」


上品に笑うこの女性にまたしても羞恥が私を襲う。きっと顔は真っ赤だろう


「私の早とちりみたいで…恥ずかしい」


「恥じることなどありんせんよ。ぬしはわっちを助けようとしてくださったのでしょう?」


「いや、でも…。」



「可愛い方でありんすね。そうだ、些か店に寄りんせんかぇ?美味しいお菓子を用意しんすよ」



「いや!そんな!悪いですよ!」


「いいんでありんすよ。丁度話し相手が欲しくて暇を持て余してたところでありんすから」



そう言うと彼女は私の手を取って立ち上がった。されるがままについて行くと近くの長屋に入って行った。



「あの、ここは?」



「ご存知ありんすかぇ?この村は吉原。時代に忘れられた都。吉原で最大の遊郭、百屋にありんす」



「もも、や…。」


遊郭という言葉に聞き覚えはある。
だけど、実際行ったこともなければ見たこともない。書物でしか存在しない非現実的な場所だった。それが目の前にあり、私は踏み入れている。


つまりここは売春宿。



「ありえないよ…だって売春は法律でも禁じられてて…」



「ここは時代に忘れられた都にありんす。この村では外のキマリゴトなど通用しんせん。ココはココの決まり事で護られてるのでありんすから。」




彼女は悲しげに笑った。







「ぬしの名はなんと申すのでありんすか?」


話題を変えるように名前を聞く彼女



「大和田、透…。」



「透…綺麗な名でありんすね。」


「あの…あなたの名前は?」


「エリカと申しんす。」




そんな話をしている間にある一室に辿り着いた。



「エリカさん帰りが遅いから心配しんした。あら、そちらの方は?」



部屋に入ると綺麗に着飾った女の子がいた。見た感じ私と年もそんなに変わらない女の子だ。ここにいるってことはおそらく花魁なんだろうな。



「わっちの友人にありんす。失礼の無いように」



「エリカさんのご友人でありんすか。私は紫陽花と申しんす。」


アジサイ…。


「私は大和田透です。よろしくお願いします。紫陽花さん」


「私と年は変わらないと思うから砕けた話し方でいいよ。しよって呼んで?」


突然さっきまでの話し方とは変わり親しみ易い話し言葉になってホッとする。


「うん。しよちゃん!私のことも透って呼んで」



「透さん。しよは友達が欲しくてたまりんせんのよ。どうか仲良くしてあげてね。」



エリカさんの言葉に顔を赤くするしよちゃん。そっか。ここにいるってことは私みたいに学校に行ったりできないから自然と同年代の友達も少ないんだ。



「しよちゃんも…その…花魁なの?」



「ふふふっ。花魁だなんて恐れ多いよ。私は禿。エリカさんに遊女としての教育を受けつつエリカさんの身の回りのお世話をさせていただいてるの」


遊女全体を花魁と呼ぶのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。



「透ちゃん。花魁っていうのはね遊女の中でもごく僅かの遊女しかなれないの。どんなに頑張っても買ってもらえなければ花魁にはなれないし、私みたいな年端もいかない子供が花魁になるには想像を越える努力と人を魅了する才能がなくちゃね。遊女っていうのはね禿から始まるのがほとんどなの」



しよちゃんは丁寧に遊女について教えてくれた。

幼い頃からここにいるのが当然と言われる遊郭にも位はあって、子供のうちは禿っていって姐さんから手解きを受けつつ姐さんの身の回りの世話をする。

15歳を超えたくらいに姐さん遊女の働きかけで遊女見習いと呼ばれる振袖新造となるらしい。多忙な姐さんに代わって接待をしたりするんだって。



他にも溜袖新造とか色々あって難しそう。







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