ミタマシズメ
「お名前は?」

さっそく好奇心いっぱいの表情で

前にとりつけてあるテーブルやシートの ボタンをいじっている

少女に問いかけると「アヤ!」と

元気な答えが返って来た。

私は微笑み、頷いて、東京で私の帰りを待つ

妊娠中の妻のことを思った。

結婚四年目。待望の子供は、女の子だと聞いている。

「オジちゃんは?」

「ん?」

「ひこうき、なんでのってるの?」

ぬいぐるみをテーブルに乗せながら、少女が笑いかける。

「オジちゃんは、お仕事の帰り道だよ。アヤちゃんは?」

「アッチャ…アヤはねー」

知らない人の前で、自分のことを「アッチャン」と呼ぶのは

少女なりの恥じらいがあるらしい。

「おじいちゃんとおばあちゃんのところに、おとまりに行くの」

「そうか。楽しみだね」

「うん!」

お盆の時期だから、両親のどちらかの家に里帰りするのであろう。

ピンクのフリルがついた袖から伸びた細い腕は、

健康的に日焼けしている。

私は少し眩しげにそれを見つめて、数年後にはこの子のように

成長した自分の娘と 会話をしているであろう自分を思い描き、

密かに胸を弾ませながら時計を見た。


そろそろ、離陸の時間だ。

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