リタイア宣言【TABOO】

「私、走るのやめるからねっ!」

 百メートルは先に進んでしまった彼にその声が届いたのかは不明。

 ガードレールにお尻をつけると、とにかく呼吸を整えることにした。


「やめるのはいいけど、座らないほうがいい。立てよ」

 突然、現れたのは黒いジャージ姿の男だった。表情なんてものはなく冷たい口調でそう言うと私の腕を掴む。


「や、やめてください!」

「親切で言ってやってるんだ感謝しろ」


 その声を聞いて、もう一度男の顔を確認する。この人……うちの会社の営業課の人だ……

 確か、一人で三億の契約をとってきたとか、ライバル社を潰したとか、何かと話題になる人。

 おまけにクールで人付き合いが悪いから、何を考えてるのかわからないけど、その抜群の容姿で女子社員からの評判はすこぶる良しだ。


< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop