海賊王子ヒースコート(1)
(どうして、この方は…こんなに優しいのでしょう?)
自分の処女を奪うと宣言した彼は、強姦されかけたところを救ってくれた。
しかも慰めてくれたあげく、今日は手を出さないとまで言ってくれた。
(単なる、気まぐれでしょうか?)
そう考えて、ついさっきまで頭にあった温もりを思い出す。
謎や不安は増すばかりだが、その中で唯一確かなこと。
(あの温もりは…心地好かった…)
感覚を思い出すと、なぜだか安心する。
アイリーンはちらりと隣にいるヒースコートを見てから、しぶしぶといった感じで横になった。
(そういえば…お礼、言ってない…)
そもそもの原因は彼らにあるのだが、貞操の危機を救ってくれたことに変わりはない。
彼女は蚊の鳴くような声で告げた。
「ありがとうございました。…おやすみなさい」
麗しの美青年が薄く微笑んだなんて、目を閉じたアイリーンには知るよしもなかった。