主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
妊娠がわかっても、息吹はいつものように庭の花に水遣りをしたり土いじりをしたり、風呂場の掃除をしたりてじっと座っていることがあまりなかった。

息吹が動く度に主さまが目を離さないようにしているのでそれもおかしくて、胡蝶はこんなに笑ったことがないと自負するほどころころと笑っていた。

…潭月と周に会うことを神経質なまでに避けていたが――そろそろ潮時なのかもしれないと思っていたのでいい機会だと思うことにして大広間の縁側に座って主さまと一緒に息吹を眺める。


「人だけれど、私たちと同じく寿命が長いと言っていたわね。妖よりも格上ということ?」


「息吹は神に近い。寿命は長いが腹も減るし病にも罹る。だから心配なんだ」


「妖と神の血が交わって生まれる子というのはどんな子なのかしら。鬼八や華月よりも力が強いと言われたお前に勝っているかもしれないわね」


「誇らしいじゃないか。俺は早く隠居したいんだ。男ならなおのこといい」


――主さまと胡蝶が楽しげに談笑している様を土いじりをしながらこっそり見ていた息吹は、傍らに立って番傘を差してくれている雪男を見上げて笑いかけた。


「仲良しに戻ったみたいで良かった。いいなあ、私にも居たのかなあ」


何を、とは聞き返さなかった。

息吹は実の親から幽玄橋に捨てられたので、兄弟が居るのかどうかも知らないし、親がどんなだったかも知らない。

中途半端に励ますのもいやだったので、雪男が黙り込んでいると、息吹はすくっと立ち上がって腹を撫でた。


「たっくさん子供が欲しいの。主さまは2人っ子だし、私は多分ひとりっ子だし…雪ちゃんもでしょ?沢山生んで毎日くたくたになる位に子供が居たら楽しいだろうなあ。雪ちゃんも私の時みたいに可愛がってくれるでしょ?」


「そりゃまあ…。お前に似てたらすっごい可愛がるけど、主さまに似てたら…どうかなあ。性格まで似られたら俺百鬼抜けるかも」


「またまたー。主さまに似たらとりあえず女遊びしないようにしつこく言い聞かせなくっちゃ」


「…おい、聞こえてるぞ」


地獄耳の主さまに聞かれてしまい、ぺろっと舌を出した息吹は胡蝶に駆け寄って手についていた土を払い落としながらもじもじ。


「あ、あの…一緒にお風呂に入りませんか?」


「え?………いいわよ」


主さまが反対するかのように目を見開いたので、意地悪心に火がついた胡蝶は妖しく含み笑いをして頷いた。
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