【超短編】湖





‐貴様は、何者だ。


少々怒気を含んだ、特別高くもなく、低くもない、
曖昧な高さの声が脳内に響いた。


まさか、そう思って恐る恐る顔を上げれば、あの鳥のような生き物が、

こちらをジッと見つめていた、羽と同じ真っ赤な色の瞳で。


もう一歩近づこうとしたが、身体が動かせなくなっている事に気づいた。

試しに、あー、と声を出す。
「声は出るんだ…」


少し安堵したところで、また質問。


‐貴様は、何者だ。どうやって此処へ入った。


まるで此処へ足を踏み入れた事が、罪でもあるかのような物言いに、苛立ちを覚えながらも、

「普通に散歩してたら、赤い鳥居をみつけて、入ったら…」



‐フ、ハハ。妙な事もあるものだ。

まあでも、何百年も生きていれば不思議な事の1つや2つ起きても、おかしくはないか。

前までは‘巨万の富’という言葉に目が眩んだ愚か者ばかり、
此処に入って来たのでな。
警戒してしまった、許せ、若者よ。


「はぁ…?」


一気に色んな事を話されて、頭が着いていかない。


‐お前の親も、祖父母もまだ生まれていない程、昔の事だ。


それより、と鳥が言った。

いつの間にか、身体は動かせるようになっていた。


‐それより、こちらへ寄ってこれを見てみないか。

羽で湖の水面を指差す姿が、可愛らしくて、クスッと笑ってしまった。

「ああ、是非見てみたい。」






< 3 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop