『鬼』

 鬼からの約定の殆どは、妖力を備え持って生まれた、
いわゆる陰陽師の家系で、四代名家と呼ばれる者達へ向けたものであった為、
一般のヒト達はそれほど縛られたわけではないが、鬼への恐怖は凄まじく、
四代名家も動くことが出来なかった。 

 中でも強く力を持つとされる、
一番初めに生まれる女児を鬼側に差し出させることで、
ヒト族に今以上の力を持たせることなく、恐怖で縛り、
繁栄していくことが出来た。

 同様に、力のある者同士の婚姻を禁じることで、
更なる力が生まれることを封じ、四代名家の当主、
すなわちその家で一番力の強い者達がひとつの処に集まることも禁じている。

 全ては四代名家を抑えつけ、ヒト族を支配することが目的だった。

四代名家が太刀打ち出来なければ、他のヒト族など雑作もない。

 力のないヒト族は、ただただ、少しでも平和に、
親族が殺されることなく過ごすことができればそれで良いと考えていた。

 そう考えざるを得なかった。

 逆らいさえしなければ、と。 

名目上、〈嫁〉とはなっていても、実際は【生贄】でしかない、
四代名家の女性たちがどうなっているかなど、気にもせず、
あるいは考えているのかもしれないが、
自分たちにはどうすることも出来ないと、
知らないふりをしているのかもしれない。

約定には〈嫁ぐ〉とあるから、それを信じているのかもしれない。
 どちらにせよ、ヒトにはどうしようもない世界の話であり、知り得ない話。


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