戸田くんの取り扱い説明書




ゴールのところで、走り終えた戸田くんに体育担当が、どうやら褒めまくっているみたい。

戸田くんが、何度も首を横に振るのが見えた。




戸田くんがひとしきり褒められていると、他の人達が今ゴールした。



戸田くん、どんだけ速いんですか。


今走り終えた男子が、

「お前、戸田、どんだけ速ぇんだよ!」

と息を切らしながら叫んでいる。



戸田くんはまた首を横に振ったあと、なぜか私の方に歩いて来た。


隣の清華ちゃんは「ちょっと水飲んでくる〜」とニヤニヤしながら立ち去ってしまった。



「ぅええぇぇ?!」


「んだよそれ」


むすっとした声が頭上から降ってきた。



はっ!


いや、戸田くん。

あのですね、今のは清華ちゃんに対して言ったのです。

ほんの1ミリも、戸田くんに対してではないのです!






「タオル貸して」


「はい?」


「あっついから、顔洗う」


「あぁ、そういう事ですね」



私は体育用のポーチからタオルを取り出した。



「………」


…えっとこれ、渡しても大丈夫な感じですか?


キャラクター、バッチリ入ってますけど…




私がタオルを眺めて考えていると、ひょいと戸田くんが私の手から取った。


「さんきゅ」


戸田くんはそのまま走って行ってしまった。


私はその後ろ姿を呆然と眺めていた。





そしてすぐに、戸田くんが走って帰って来た。


前髪から水滴が滴っている戸田くんは、これまたかっこいい。


どきどきを抑えながら私がタオルを受け取ろうと手を伸ばすと、戸田くんは首を傾げて「?」という顔をした。



「いいよ。洗って返すから」


「え……?」



戸田くんは私の言葉も聞かずに、無造作にそのタオルをポケットに突っ込むと、またグラウンドに戻って行った。





※数日後、戸田くんからタオルを返してもらった岡田さんは、終始ニヤニヤしておりましたとさ。

< 15 / 51 >

この作品をシェア

pagetop