“またね。”
寒がりのくせに、相変わらず首元にマフラーを巻いただけの、見るからに寒そうな格好。

いつかくれた物と同じ、紺色のマフラー。

そんな薄着だから、大ちゃんの手は真っ赤だ。



差し出された左手に、右手を重ねられたら─



でも菜摘には亮介がいるから

素直に手を取ることなんかできない。

だからといって、また『大丈夫だよ』なんて言うことはもっとできない。

言いたくない。



だって、手を繋ぎたいって思ってる─



そっと、学ランの袖を掴む。

小さな罪悪感があるから。



素直に手を繋げたら─



「…ああ、そっか。彼氏いるんだっけ」

大ちゃんの少し寂しそうな横顔を、菜摘はきっと忘れない。

『彼氏いるんだっけ』にショックを受けた自分も。

「…うん。でもありがとう」

『彼氏』がいなかったら、素直に手を取れるのに。

でも『彼氏』がいなかったら、素直に手を取ってしまう。



学校に着いて手を離すまで、一言も交わさなかった。

声を出したら、きっと震えてしまうだろうから。

時折触れた大ちゃんの手は

とても
とても

冷たかった。
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