siNger

「あ・・・あの・・・ここ,危険です。」
「・・・・・。」
「最近この辺で空き巣が出たので・・・こんなところにいたら疑われちゃいますよ?」
「・・・・・・そう。」


そうは言ったけど,その人は動く気配がない。


「あ・・・・あの??」
「捕まったら・・・・その時だよ。」
「・・・・・。」


私は上から彼を見下ろしている。
彼は会話はするけど,目線を合わせない。

顔はイケメン。少したれ目。
髪の毛は短くてとくにセットされていない。
服装はロンTにジーパン。
ズボンのポケットに手を突っ込んでただ立っていた。
年齢は・・・・同い年かそれ以上かな。。。。


私は,なんとなく離れられなくてその場に腰をおろした。




「ずっと・・・来てるんですか?ここに。」
「・・・・なんで?」
「別に・・・なんとなく聞いただけ。」
「・・・・・・。」
「『音』・・・・。聞いてるんですよね??」


「え??」


彼と目が合った。

うわ,きれいな顔。


「バッシュの音・・・聞いてるんですよね?」
「・・・・・・。」
「ずっと聞いてると『音楽』みたいですもんね。」
「・・・・・。」
「・・・心地い気がする。」
「・・・・・馬鹿に・・・しないのか?」
「え?」

彼は下を向いた。

「惨めだって・・・・思わないのか?」
「ミジメ・・・??」
「・・・・・・。」








「素敵だと思いますけど。」



素直に,そう思った。
なんでだろう。



素敵だと思ったんだ。


そういった時の彼は,なぜか悲しい顔をしているように見えた。





彼は,『またね』と言って,行ってしまった。
< 13 / 224 >

この作品をシェア

pagetop