カノン




「……どうしても……

直接、お話したいんです。




話すまで……、帰れません。




……お時間は取らせません。


話したら、すぐ帰ります。


仕事も……明後日から ちゃんと行きます。


だから………」






……必死だった。


結果は どうあれ、景さんに話を聞いて貰う所までは何とか持って行かなければ…という思いで、

いっぱい だった。




ただ、何度も喉元まで出掛かった、

″帰る場所はない″、″景さんの所に置いて欲しい″という言葉は飲み込んで…。




明後日から仕事に行く なんて、

景さんに嘘を吐く事も心苦しかった けれど、


話を聞いて貰って初めてスタート ラインなんだから…

″せめてスタート ラインには立とう″と、電話を耳に当てながら、その事ばかりを必死に考えていた。






そんな あたしの気持ちが通じたのか どうかは分からなかった けれど、


何度目かの長い沈黙の後 重い口を開いた景さんは、

最初に何か自分を納得させるかの ように短く息を吐くと、言った。








「……分かった。


リアちゃんが そこまで言うなら…。




……いいよ、会おう」




「……ありがとう、ございます」






こうなる事を願っていた筈なのに、

″ありがとう″という台詞とは裏腹に、

今度は緊張で、気分が盛り下がっていく。




先の事は分からないけれど…

もし本当に″運命″だったら『天国』、

でも、全部あたしの痛い勘違いなら『地獄』。


…景さんの″会おう″という返事は、

天国へのカウント ダウンの可能性でも あったけれど、景さんとの″別れ″へのカウント ダウンの可能性でも あったから…。





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