カノン
俺が電話している間も君は、
眉毛を下げたまま、時々 目を泳がせたり も していた。
その様子から、
"個室で話そう"という言葉とは裏腹に、君は一刻も早く俺の傍から立ち去りたいんじゃないか という気が、した。
そう言えば…
君に会いたくて、あの部屋を抜け出して来たのも、
サナに託したくせに、君が車から降りようと しない って聞いて、何とか しよう と ここまで来たのも、
全部、俺の勝手。
君が望んだ訳じゃ…ない。
きっと君は、
俺の誘いを上手く断る術を思い付かずに、ずっと困った顔をして…いるのかも しれない。
「……ごめん」
「…??」
「……店。
いっぱい だって」
電話を仕舞いながら そう言うと、
俺と一緒に居る口実が なくなった と いうのに、なぜか君は また、困ったような笑みを、浮かべた。
「…そう、ですか…。
それなら、仕方ない ですね 笑」
そう、半ば自分に言い聞かせるように言って、
真っ直ぐ、俺を見上げる。
そして、躊躇いがちに ゆっくり、口を開いた。
「あのー…。
本当は、お店で ゆっくり話そうと思ってたんですけど…」
「…?」
「…あたし…今日 泊まったら、明日 地元に帰るので…
ここで言いたい事、全部 言ってって いいですか…?」
そこまで言うと、君が泣きそうな顔で、また小首を傾げた。