カノン




ホテルの受付でチェックインの手続きをして、荷物だけ預かって貰って、また外へ出て…、

当ても無く歩きながら、立ち寄れそうな場所を見つけた あたしは、其処で もう1度 景さんに電話を掛けた。




あれから結構 時間が経ってしまったし、

景さん自身は、また電話してもいい と 言ってくれたけれど、

決して暇な人じゃないから、

今は立て込んでいるのかも、しれない。


…呼び出し音は、なかなか通話に切り替わらなかった。






「…………」






特別 用事が ある訳でも ないし、

もしかしたら今は、電話を鳴らしちゃいけない場所に居るのかもしれない…


…そんな気も したから、

暫く待っても呼び出し音が変わらないのを確認して、そのまま電話を切ろう と、ボタンに手を掛けた。




……けれど、それを完全に押す前に

突如 呼び出し音が、止まった。






「………」




…それなのに、

景さんの声は…、聞こえて来なかった。




明らかに誰かが電話を取ったと思うのだけれど…、無言が続いているから、

あたしも思わず無言のまま固まった。






それから暫くして、ようやく声が聞こえた時、

あたしは また別の意味で、固まった。






「………あっ

景さん、今 電話 鳴ってましたよー!


…はいっ」




受話器の向こうから、

女の人の声が……聴こえた。


続いて、繋がってる事に気付いていないのか、電話を手渡す気配も…。






「あぁ…さんきゅ」




電話を受け取った景さんの声は、

今までに聴いた事が無いような…、リラックスした声だった。




この緩い空気感から、景さんが今 居るのは自宅……なんだと、思う。




でも自宅に、自然に話が出来る女の人が居るって……。


どういう事か考えてみても、

彼女としか、思えない。




景さんは実家 暮らし じゃないし…


仮に そうだった と しても、景さんに男兄弟しか居ないって いうのは、

SIVAファンの間では常識っていう位、有名な話だから……。





< 79 / 275 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop