私だけの王子様
「じゃなくて、こんな話をするために来たんじゃないよ!クッキー作ろーよ。」


そうだ。沙耶の言う通りだ。
こんな事で時間を潰す訳にはいかないんだ。


「千夏、生地作って!」

「砂糖入れないと!」

「焼きすぎだって!」

「これ・・・何の形・・・?」


沙耶の厳しい言葉を受け、やっと出来上がったクッキーは私の苦労がたくさんつまっている。


「初めてにしても千夏ってホント料理下手だね~!」


また笑って茶化す沙耶。だけど今回は許してあげる。沙耶の協力があって出来たんだから。


「残すはラッピングだねー。」


沙耶の言葉を聞くと何故かバレンタインデーを思い出す。
バレンタインデーとか誕生日ぐらいしかお菓子なんて作らないからね。


「ラッピングに、ラブメッセージとか添えるー?」


沙耶の問い掛けに私は戸惑った。悠斗とは本当のカップルじゃない。だからラブメッセージなんて・・・。


「ううん。何もなくて良いから。ラッピングもシンプルにしよ!」


あまり気合いが入ったラッピングも好きじゃない。
それに、あまり気合いが入ったのを悠斗にあげると悠斗は期待とかしちゃいそうだから・・・。

半端な気持ちは止めた方が良い。そう思うから。
でも、そう思うなら最初から上手く一ヵ月付き合うのを断れば良かった・・・。


「よし、出来た!」


完成したシンプルなラッピング。沙耶も喜んでいた。


「これで月曜日に渡せるね!立花くん、絶対喜ぶって!」

「・・・うん。」


この時、私は上手く笑えていなかったと思う。
沙耶の“立花くん、絶対喜ぶって!”の言葉で渡すのに抵抗が生まれた。
気合いを入れたラッピングなんて関係なく、ただ手作りのお菓子を渡すのだけで悠斗は期待するんじゃないの?
いくら私の手作り料理を食べたいと言ったからって私が本当に作るのって悠斗は期待とかするんじゃないかな。
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