ロンリーファイター



彼女は強い人だと思う。怖い人だとも、思う。

いつも一人でいて、山ほど仕事が溜まっていても誰にも頼ることなく





『お先にー』

『うん、お疲れ!』

『稲瀬今日も残業か。よくやるよなぁ』

『……』





あれもこれも、一人でやり切ってしまう人。





『何で話が通じないのよ…ふざけるんじゃないわよ…もうやだ…疲れた…』

『うわ…稲瀬へこんでるなー…』

『大丈夫なんすか、あれ』

『どうせすぐ立ち直るよ』

『……』





けど時々へこんだりもしてて、いつでも目をひく存在だ。



そんな姿ばかりを見ているから、あの飲み会の日の無防備な姿が意外で、一瞬目が眩んだのも事実。


でも徹夜した日の朝、抱き締めたのは下心とかそんなものじゃなく、ただ純粋に抱きしめたいと思った。





『本当に、ありがとね』





頑張って、頑張って、それでも笑う彼女を、愛しいと思ったんだ。





『椎菜さん』





呼んだ名前は、この距離が近付けばいいと願いを込めて。




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