神龍と風の舞姫
海斗がいないことをいいことにつらつらと海斗への不満を並べる

冷たい水で手を洗い、袋を抱えて立ち上がったしるふは、ふと水面に映る大きな月を見つめる

あれが俗にいう鏡花水月ってやつか

「ん?」

ゆらゆらと揺れる月を眺めていたら、背後でがさっと何かが動く気配がする

振り向いて気配を探っていると

「……ム、百足…!!!」

しるふの腰以上の大きさを誇る百足が顔を出した

のそのそとしるふの方へ寄ってくる

「…!ま、待って!!私百足だけは!!!その左右非対称に動く脚だけはだめなのー!!!!」

ひっと喉の奥で悲鳴を飲み込んだけれど、草から這い出した百足の肢が視界に入って思わず叫んでしまう

それでもなお近づいてくる百足に、その大きな足に身を引いたしるふは、

「って!わ!!…きゃッ!!!!!」

ばっしゃーん、と大きな音と派手な水しぶきを上げて湖に落下する

瞬間、月が波紋で消えて現れる

のそのそと音もなく、不思議そうにしるふの落下した場所を百足が覗き込む

次第に静まっていく波紋

いつまでたっても水から出てこないしるふに、こくっと小さく百足が首をかしげていた
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