†captivity†(休載)



どっからどう見ても、それは見覚えのある、なんなら音までイメージできる、あのピコピコハンマーだった。



「現実に、戻す、とは……?」

「揺すったくらいじゃ起きないから」

「いや、寝てるわけじゃなかろうに……」



そんなに彼の集中力は凄まじいのだろうか?

というかなぜピコハンなのだろうか?

まさかそれで叩くの?



既にソファーに座って本を開いていた東先輩の視線がこちらに向き、その口を開く。



「過集中、だよ」



その正体の、説明をする。

恐らく、心くんの今の状態の話だろう。



「別に俺が蹴り上げて起こしてもいいんだけど、俺が起こすと機嫌の悪さが手に負えないんだよ。奏多だと食事のために仕方ないか、って納得するらしいけど」



蹴り上げて……ってそれはきっと誰でも不機嫌になるのでは……。

でもそうか、そこまでしないと彼はこちらに気付かないのかもしれない。



「前の更新て、確か中学入る頃って言ってましたよね。その頃東先輩ってもう出会ってましたっけ?」

「いや、心とは中学二年から」



たしか奏多くんも、心くんに出会ったのは中学に入った後だったはず。

となると、更新した頃にはまだ出会っていない。

更新を見ていないのに、この状態の心くんを目にしたことがあるということだ。



「更新以外でも、その……過集中?ってなったことがあるんですか?」

「ちょっとしたことですぐこうなるよ。だから心は普段から意識して気を抜いてる」



意識して、気を抜いてる……?

なぜ、気を抜く必要があるんだろうか?



意味を理解出来ないあたしに、奏多くんがピコピコハンマーを握らせてくる。



「起こして、みる?」

「……あたしが!?」



その役目を、譲られてしまった……。



「そうだね、どんな反応をするか見てみたい」



ニヤリと、東先輩は悪戯に笑う。

それはそれは楽しそうに。

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