†captivity†(休載)


水族館に着くまでの間に、ふと思い出して彼とアドレス交換をした。

というか、彼の方には既に登録されていたけれど。



「ずるいです」

「なにがだ?」

「心くんばっかりあたしの情報持ってて」

「覚えていただけだ」



あたしだって、もっと彼のことを知りたい。

彼ばかりが、あたしのことを隅々まで知っているように感じてしまっている。

それに少し、寂しく思うと。



「俺だって和歌の全てはわからない。自分自身の全てすら把握出来ない」

「……確かに、そうですが」

「知ってるように見えるのは、お前が気付かない面に俺が気付いているだけだ。逆も然り」



ふわふわと髪を撫でてくれるその手が、気持ちいい。

焦る心を落ち着けてくれる。



「俺が和歌に惚れてて、和歌が俺に応えてくれる、これ以上になにを求める?」



サラッとそんな風に言われてしまうと、戸惑ってしまう。

だからなぜ、あなたは時々、そんなにもどストレートな言葉をぶつけて来るんですか!!

照れさせたいんですか!?

顔を伏せると、クスクスと笑う声が聞こえる。

あぁ!もう!彼のペースに酔わされてばかりだ。



「俺が知りたいのはお前の気持ちだけでも十分だ。他はデータの域を越えない。必要な情報は後々知って行っても遅くないだろ」

「そうですかね」

「他人のペースと比べるから不安になるんだろ?そういうもんだ」



確かに、比べていたかもしれない。

彼があたしの情報を持ってることを知る度に、あたしは知らないのにって。

奏多くんや東先輩から彼のことを聞く度に、知らないことを教えてもらう度に、不安な気持ちや嫉妬が……微かにも、広がっていたことは否めない。



そうか、あたし嫉妬してたんだ。

だから誰よりも彼のことを知りたいと、焦っていたんだ。



そう気付いた瞬間に、ふと気持ちが軽くなったように感じた。



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