†captivity†(休載)


今まで返していた言葉がなくなり、車の中は無音に戻る。



心くんは運転手さんに目を向けたまま、黙っている。

眉を僅かにひそめ、鋭い視線から哀しそうな視線に変わっていた。

その静まり返った空間の中で、運転手さんの言った話の意味を、受け取った。



心くんは子供っぽさが足りない。

運転手さん曰く、人を頼ってほしい、という。

それに対し、黙ってしまった心くん。



思い当たることが、あったのだろうか?

なんてことない話なら、きっと流していただろう。

でも、彼は無言という反応を示した。



「まぁ、内情を知るひとりのおじさんの、ほんの少しの願いですけどもね」



そう話を締めくくり、車は静かに目的地へと到着した。



「和歌お嬢さん」

「はい……?」

車を出る直前、そう引き止められる。

心くんは既に車を降りて、あたしが降りるのを看板を見ながら待っていた。



「坊ちゃんのこと、頼んでいいですかね」



少しだけ眉間にシワを寄せ、柔らかく笑う運転手さんと、先程の会話が重なる。

彼が、人を頼れるようになる絶好のチャンスになるかと……運転手さんはそう言っていた。

そう願っているのだと思った。



放っておくと、なんでも背負ってしまう彼。

背負いはするのに、決して自分の負うものは見せようとしない、彼……。

この人も、そんな彼を心配してくれてる一人なのだと、感じた。

彼を、彼自身を見て、彼自身に寄り添ってくれる一人なのだと。



心くんは、突っぱねてばかりだけど。



「お任せください!いっぱい甘やかしてきますね」



ふふっと笑みを返してから、車を降りた。

笑っているあたしに、心くんは怪訝そうな顔をしていたけれど、気にしない。



さぁ、今日のメインが始まります!
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