瑠哀 ~フランスにて~
 リチャードの片眉が少し上がったが、


「強気もいいが、実のない驕りは馬鹿を見る、とね」

「さあ、どうかしら」


 リチャードが答えたように同じ返答だった。


 どこからそんな余裕がくるのか、どこからそんな自信がくるのか、リチャードには計ることができなかったが、それでも、リチャードは何の焦りも見せなかった。


 リチャードには全ての駒が揃っている。


 そして、その配置もリチャードの采配次第なのだ。


 ここで、瑠哀のような小娘のでまかせか、はったりか――に耳を貸して、懸念するような臆病者でもない。


 守っているだけなら、自ら進んで駒を動かそうなどとはしない。その攻めが、強気を必要とするのだ。


「まあ、せいぜい足掻くといい。

それで少しは己の落ち度を理解することだろうさ」

「そうね。本当に。

まさに、その通りだわ、リチャード」


 くっと、小馬鹿にしたように瑠哀がわざとそこで吹き出していた。


 リチャードの片眉が微かに揺れた。
 ―――だが、すぐに、口端だけを皮肉げに上げ、スッと踵を返す。


 その短いやりとりは、そこで終わりだった。


 リチャードは瑠哀達など振り返りもせずに、さっさと歩き出し、その場を去っていた。
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