瑠哀 ~フランスにて~
 どこかを眺めているのでもなし、それでも、朔也やピエール達を眺めているのでもなし。

 どこかに向けられた瞳が吸い込まれそうなほど深い漆黒の色を映していた。


 瑠哀が集中している。

 今、ここで、朔也やピエール達がいるということさえも視界に入っていないのかもしれない。

 リチャードとあの対面をして以来、瑠哀はずっとこうだった。

 傍で座っている朔也やピエールがはっきりと感じ取れるほどに、

瑠哀の神経は研ぎ澄まされていた。


 空気が、きつく突き刺さるようだった。


 瑠哀が、集中していた。


 ケインか、リチャードか。それとも、二人同時に。



 瑠哀の全神経がそのことだけに集中していて、全くと言っていいほど他の雑念を見せさえしない。

 もう、眠りもしなくなった。

 ファンデーションで隠すこともなくなった――もう、そんなことに構う気もないのか――顔色は、

ここ数日で更に蒼みを増したようにさえ見える。



 だが、今の瑠哀には、そんなことさえも気に懸ける様子はなかった。

 今、瑠哀の心には、あの二人のこと以外、何も入ってこないのだ。

 何も聞こえないのだ。

 ――そして、感じてもいないだろう。

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