瑠哀 ~フランスにて~
 たった今、リチャードの念頭にあることは、

眼前に差し迫る現状を最後に打破し抜くことだけが、置かれているはずだ。

 最後の賭け、とも言える、リチャードに残されたたった一つの難題である。

 これさえ切り抜ければ、リチャードはまた以前のように復帰できるのだ。

 たった一度のヘマではあったが、その最後に課された難題こそ、

リチャードがその自身の腕を見せ付けるその時なのである。



―――なんとも愚かな考えなのだろうか。



 瑠哀は、絶望していたはずであろうリチャードの今のその表情を見取って、

言葉なく、哀れむこともただの無駄であるかのような気持ちを感じていた。

 今、リチャードに突きつけられた難題を前に、リチャード自身が微かに高揚しているのは間違いないのだ。


 すぐにでもやって来る自分の勝利でも妄想して、

その勝利の余韻でさえも感じているのだろうか。

 ギラギラと興奮でみなぎった目を真っ直ぐ突進して行く方向だけに向け、

その口端が気味悪く上がっていた。


 猛疾走をして走り抜けて行くボートの前に、向こうから何隻か

――いや、かなりの数の船がリチャードと瑠哀の乗っているボート目掛けて真っ直ぐに突進して来るように見える。


 ザバッ。バシャ、バシャバシャ――


 水飛沫を跳ね上げているボートに寄って来るかのように、

中型の船が何隻もすぐ間近に突進して来た。

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