瑠哀 ~フランスにて~
『君に言い忘れたことがあって、戻って来たんだ』


 瑠哀は、なに?というふうに目線を上げる。


『なにかあったら、俺のところに電話するように言おうと思ったんだが――。

どうやら、遅かったみたいだな』


 朔也はバスルームのドアを開けたり、寝室のクローゼットなどをチェックしながら、瑠哀を見る。


『何があった?』

『別に、なにも……』

『君に会ってピエールのところに行く間、誰かに尾けられているような気がした。

ギャラリーで確かめたら、確かに、誰かがずっと見張っていた。

今は、その気配はないけどね』


 やはり、今日も見張られていたのだ。予想はしていたので、特別、驚きはしなかった。


『君を追ってここに来たら、ドアも開けっぱなしで、君の様子が変だったから声をかけずにいた。

―――あいつらが、ここに来たのか?』

『さあ………』

『――ルイ。自分の部屋の前に立って、部屋に入らずに中を睨み付け、

ドアも閉めずに入る。なぜだ?

――誰かが潜んでいる可能性があったからだ。

ドアは、いざという時のための逃げ道だろう?

ドアの傷を見た。あれは、先の尖ったものでドアをこじ開けた証拠だ。

誰かがここに忍び込んだのは間違いない』



 よくも、これだけの短期間でこの状況を推測することができる。

 見かけによらず、かなり鋭い男のようだった。
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