瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀は月を見上げていた顔で、ピエールを斜めに見下ろした。

 口元に微かな笑みを浮かべている瑠哀は、普段とはまったく違った妖艶な雰囲気をしている。



「―――ピエール、どうしたの?」


 黙り込んでいるような様子のピエールを呼ぶ。


 ピエールは大きな瞬きを一つして、頭を軽く振った。


「―――何でもないよ。

それは、面白いかもしれないね。

絵の題材に使えそうだ」



 そう、と瑠哀は笑った。

 ピエールが作品を作っているところを見たことがない瑠哀は、初めてそれに関係することを口にしたピエールに興味があった。



「年にどのくらいの割合で描いているの?」

「特に決まってないよ。

気に入ったものなら、どんなに時間をかけても苦にならない。

その気分次第で、

早い時は一~二週間でできるのもある」

「芸術家のインスピレーション、ってやつね。

じゃあ、現実的なのが多い?

空想的とか、神秘的とかは描かないの?」

「そっちの方には、全く興味がないからね。

こう感じたからこう描く、と言って判る?」

「なんとなく、ね。

私も、たまにそういうのがあるから。

何となくこう感じる、ってやつね。

全てのことを感じるほど敏感ではないけれど、

他人が嫌っているかどうか感じることくらいは鈍感ではないと思ってるの」

「なるほど」
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