瑠哀 ~フランスにて~
「そんなことは、わかっているよ。

そのあざの具合から言って、できたのは一週間ほど前だろう。

最初に流れた血が褐色し始めている。

だが、その時、君は俺と一緒にいた。

そうなると、それより前、と言うことになる。

君が襲われた時ではない。

あの時の君は怪我などしていなかった。

それより後で、俺が君のモーテルに行く前だな」


 勘が鋭いだけではなくて、頭も切れる男だとは、彼を少し甘く見過ぎていたかもしれない。


「……最初に会った日よ。

レストランを出て、モーテルに一度戻ったら、尾けられていたの。

逃げる途中で、階段から落ちたわ」

「落とされたのか?」

「そういうことになるわね。

私に伸し掛かってきて、上から転がり落ちたの」

「だから、エッフェル塔で会わなかったのか」


 瑠哀は顔を上げて朔也を見る。


「待っていたんだ。

君に会おうと思って、ね。

言っただろ、君を探していた、って。

ピエールが君のピアスを預かっている」

「レストランの入り口で落としたんだよ。ウェイターが拾って、届けに来た」

「あの…ピアス?

――失くしたんだと、思っていたの。

レストランにあったのね。

良かった、気に入っていたものだったから」

「エッフェル塔に来れなかったのか?」

「気が付いたら、病院だったわ。

脳震盪で倒れている所を発見されたの」


 朔也もピエールも、唖然としたように口を開けた。
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