極上御曹司のイジワルな溺愛
そんな、ふたつの気持ちの間でひとり闘っていると、フッと笑う声が耳に届く。

「どうして、ここで笑いますか?」

声がした方へ顔を上げれば、にやりと片方の口角を上げて笑う蒼甫先輩の顔。

「顔を見てるだけで、椛の考えていることが手に取るようにわかるなと思って」
「なんですか、それ。人のこと、バカみたいに言わないでください」
「バカなんて思ってない。可愛いなとは思ってるけど」
「っ……」

額に顔を寄せた蒼甫先輩が、優しく唇を押し当てる。

「仕事のことは心配するな。俺は副社長だからな、予定なんてどうにでもなる。だがこのことは他言無用だぞ、いいな?」

お互いの額と額がコツンと合わさり、間近に見る蒼甫先輩の口元がゆっくりとほころぶ。

「いいんですか、そんなこと言って。私、誰かに話すかもしれませんよ?」
「好きにしろ。まあ、お前も共犯者だけどな」
「共犯者……。なら黙っておきます」

冗談を冗談で返し、どちらからともなく笑い合う。

まさか、こんな展開になるなんて──

嬉しさとふたりで過ごす時間に、心が騒いで落ち着かない。

年内にゆっくりできる時間は、きっとこれが最後。これからの忙しい毎日を乗り切るための、神様からの贈り物だと思って楽しんでもいい?

蒼甫先輩と何かを語るように見つめ合うと、唇が近づく予感にそっと目を閉じた。




< 216 / 285 >

この作品をシェア

pagetop