極上御曹司のイジワルな溺愛

山の中腹に建つ旅館の展望風呂から、ひとり、その景色を楽しむ。“美人の湯”と呼ばれるお湯は柔らかく、肌の滑らかさを感じながら部屋へと戻る。

「おかえり」

先に戻ってきていた蒼甫先輩に向かえられ、つい笑顔が溢れてしまう。

「いいお湯でした」

そう言いながら部屋の中へと足を踏み入れると、座卓の上には豪勢な夕食が所狭しと整えられていた。

思わず「わあ、スゴい……」と感嘆の声を上げてしまい、蒼甫先輩に笑われてしまった。

いい歳して恥ずかしい……。

そそくさと逃げるように隣の部屋に行くと、手にしていた着替えを片付ける。

別に旅行が初めてということではない。両親や友達とよく出かける。特に温泉旅が好きで、その中でも料理はその地方ならではの食材を堪能できると、楽しみのひとつだ。

そんな当たり前な光景も、蒼甫先輩と一緒だと何もかもが新鮮で、ひとつひとつが目新しく感じてしまう。

だから自分でも思いがけず、声が出てしまった。

笑われてことでなんとなく戻りにくい気持ちでいると、「椛、さっさと来いよ」と待ちくたびれた蒼甫先輩に呼ばれ重い腰を上げた。



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