ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
シイナはパネルのボタンを押し扉を閉めると、備え付けのバスルームに入り、空のバスタブへ薔薇をおいた。
この部屋に花瓶などなく、ましてや花を生ける風習など耐えて久しい社会に育ったシイナには、辛うじて切った花は水に入れなくてはならないのだということしか考えつかなかった。
そうしてバスタブに水を入れる。
水位が上がるにつれて水の上をたゆとう深紅の薔薇を見ながら。
よい夢を。
フジオミの言葉が甦る。
馬鹿馬鹿しい――正直、大声でそう叫びだしたい気分だ。
よい夢など、もう自分は見ることはないかもしれないのだ。
そう言ったフジオミのせいで。
シイナは苛立たしげに水を止めた。
眠れない夜をいくつ過ごせば、この痛みは消えるのだろう。
胸が痛い。
けれどそれは、肉体の痛みではない。
原因はフジオミだ。
彼がシイナを愛することが、苦痛で堪らないのだ。
わかっていながら、シイナにはどうすることもできなかった。
ただ苦しいだけであるのなら、切り捨ててしまえばよかった。
けれどそれは苦痛以外のもどかしい焦燥も自分に自覚させる。
いつまでこんな痛みを抱えていればいいのだろう。
愛する、ということがわかれないのだ。彼女には。
身体を重ねることだけが愛ではないと、フジオミは言った。
心だけが感じる穏やかな愛もあるのだと。
だがフジオミの行動は、肉体を求められることと同じくらい、シイナにとっては苦痛なのだ。
寄せてくる想いと同じものを、返せるわけでもないのに。
いっそ見返りを求めてくれたほうが楽だった。
今までさんざんそうしてきたではないか。
泣いて嫌がる自分を初めて犯したあの日から。
あの時から、シイナは全てを義務だと諦め、割り切った。
そうして、己の義務を果たしてきた。
それなのに。
こんな一方的で押しつけがましい愛情を、何故今更自分に与えるのだろう。
意味のない優しさなどいらない。
はきちがえた思いやりもいらない。
放っておいて欲しかった。
許されるなら、傍にも来てもらいたくない。
それでも、身に染みついた義務感は、フジオミを邪険に扱えない。
本来自分には、拒否権など無いのだ。
彼は生殖能力を持つ完全な男性体だから。
本来ならマナとの間に子供をもうける貴重な子種だったのだから。
遺伝病を抱えた不妊の自分とは違う、特別な存在だ。
未来を創れない、希望を残せない自分は、すでに生殖能力を持った女性体のいない社会では、男の欲望のはけ口として使役されるだけなのだ。
そんな風に刷り込まれた自分自身にもまた腹が立つ。
「――」
じりじりした思いを抱えたまま、時は流れる。
そうして、また、朝が来る――