ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

「――もう、行くわ」
 会話を切り上げて、シイナはその場から離れる意志を告げた。
「ああ。僕のおしゃべりにつきあってくれてありがとう」
「いいえ。私のほうが教えてもらったわ」
「また、仕事の後で会えるかい?」
「……約束は、できないわ」
「じゃあ、終わる頃に行くよ。もし早く終わるなら、夕食を一緒にどうだい」
「――ええ。いいわ」
 背を向けても、フジオミの視線が自分に注がれているのをシイナは感じていた。
 きっと自分の姿が見えなくなるまで、彼は目を離したりしないのだろう。
 自分に割り当てられた研究室に入り、シイナは椅子に座り込む。
 朝からフジオミに会ってしまったせいで心は千々に乱れていた。
 片付けねばならない仕事を前にしても、なぜか切り替えられない。

 マナがいない今、研究を続けて何になる。

 そんな考えが頭を離れない。
 だが、研究を止めてしまったなら、自分はどうなる。
 何をすればいい。
 死ぬまで、こんな生ぬるい、フジオミとの時間を過ごせというのか。

 穏やかな会話。
 優しい心配り。

 けれど、燻る苛立ちと不安でどうしようもなくなる。
 そして思考は堂々巡りを繰り返す。
 周囲の全てがあまりにも、変わりすぎてしまった。
 マナもなく、自分達の存在理由さえ、もう定かではない。
 寿命さえも短くなってしまった今、残された人間達は穏やかに時を過ごすだけ。
 シイナにとっては、何の意味もないくだらない生活だ。
 彼女は常に求めていた。

 自分の存在する理由を。
 意義を。

 フジオミは、一体どうしたいのだろう。
 愛するということだけで、残りの生を過ごそうというのだろうか。
 それは、シイナにとってはとても奇妙なことに思える。
 自分に対する感情が愛とわかったから、生殖の欲求は消えたというのだろうか。
 だが、そうであるなら、それを愛とは言わないのではないか。
 肉欲を伴った愛があるからこそ、人は――人類は生き続けてきたのではないのか。
 だからこそ、マナはフジオミではなくユウを選んだのではないのか。

 精神と肉体の繋がりは、一体どちらが強いのだろう。
 どちらがより強ければ、愛といえるのだろう。

「――」
 いくら考えても答えの出ない問いを考えることに、シイナはうんざりしてた。
 だから、目の前の書類に無理矢理目を向け、仕事に没頭した。





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