白銀の女神 紅の王(番外編)
「放してください。あっちのベッドで寝ますから」
一瞬先ほどの言葉を忘れそうになったが、鋼の心をもってシルバの腕から逃げるように後退する。
…が、そう簡単に放してくれるシルバではない。
背にあてられた手で体を引くことができず、そればかりか気づけば再びベッドに押し倒されていた。
「ここで寝ろ」
見下ろす紅の瞳は冷徹な国王と呼ばれるにはあまりに優しかった。
少し眉間を寄せているが、それも私の身体を想ってのことだと思えばトクンと心地よい胸の高鳴りを感じた。
大きな手で額に手をあてられれば不思議と先ほどの小さな嫉妬が薄れていくようで、なんだか拗ねていた自分が恥ずかしくなる。
フイッと視線を横にはずすと、頭上からククッと小さな笑み。
チラリと見上げると、そこには耐えきれない笑みを零したシルバの顔があった。
笑われたことに若干の不満はあれどシルバから目を逸らせない。
時折見せる少年の様な笑みを前に、私はやっぱりシルバの事が大好きなんだろうな…と諦めに似た気持ちが込み上げた。
私とシルバの掛け合いにフェルトが大きなため息を吐いた時、一階からものすごい勢いで階段を駆け上がる足音が聞こえた。