白銀の女神 紅の王(番外編)
「それで、ノース地区で何があったんだ?」
何事もなかったようにそう聞けば、ウィルは顔を引き締め、いつもの宰相の顔つきになった。
「それが…貴方がノース地区を出て行ってから昨日まで土地売却について首を縦に振らなかった貴族たちが"土地を売る”と言いはじめたんです」
「どういう風の吹き回しだ?俺は会議が延期だと聞いた日から今までここにいたが…」
考え込む俺に同調するようにウィルが「そうですよね…」と難しい顔をしながら応える。
「僕もシルバがノース地区を出てからはノース地区の貴族の誰とも接触していませんし、この話も突然聞かされたんです」
ウィルが腕組みをするのは本当に難題がふりかかったときのみだ。
今回は難題という類ではないが、ウィルが腕組みをする理由も分かる。
あれだけ土地を売ることに首を振っていた貴族たちが突然承諾をするなど、考えにくい。
「喜ばしいことですが、不思議なこともあったものですね。あんなに頑なに拒んでいたのに。しかもあのグリッド侯爵が許可したというんですから驚きです」
コンコンッ…――――
グリッドが!?と驚き、口を開こうとした瞬間、扉をたたく音が遮った。