白銀の女神 紅の王(番外編)
「けどエレナ様は…」
ニーナの言葉の裏にはこの国の妃である私に下働きのようなことをさせたくないのだという想いがうかがえる。
けれど、城を一歩出れば私だっていち市民と何ら変わりないし、今は旅の一行として来ているのだ。
郷に入っては郷に従えというし、ノーラン家の家訓が働かざる者食うべからずならば私はそれに従う。
「いいのよニーナ。フェルトさん、熱が引いたら私も働きます。だからそれまで少しお世話になっても良いですか?」
「風邪が治ったら覚悟しておくんだね」
フェルトは目を見張った後、畑に戻っていった。
その背を見つめていると、ニーナが横で頭を下げる。
「すみませんエレナ様、フェルトさんはいつもあんな風ではないんですけど、初めて会った人、とりわけシルバ様がらみの方には厳しくて」
ニーナがいうことも分かる気がする。
「たぶん私がシルバの妃として認められていないのね。フェルトさんにとってはシルバは息子みたいなものだし、大切な息子をとられた気分なんだと思うわ」
煙たがられるのも理由さえ分かれば何のことはない。