僕は君を殺し尽くしたい
物心ついた時にはもう、僕らは虐待されていて、監禁されていたと思う。
僕らを道具としか見做していない父親。
僕らを愛して、愛して愛して愛し過ぎたが故に、歪んで僕らを監禁した母親。
痛みと一方的で理不尽な愛情が、僕らの日常。
暴力も痛みも理不尽な愛情も、全て二人で分け合った。
お互いの傷を舐め合った。
暴力しかくれない父親も、僕らのことを愛してると勘違いしてる母親も、僕と弟の世界には入れない。
僕と弟の二人だけの世界。二人だけで完結した世界。心地のいい二人の世界。
他の誰もいらない。他の誰かなんていらない。
僕も弟も、お互いだけしかいらないんだから。
暴力も痛みも理不尽な愛情も、僕らの世界を彩ってくれるもの。
心地のいい世界だったのに。誰も、何も、いらないのに。邪魔だったのに。
そいつらは、土足で僕らの世界を踏み荒らした。蹴り崩した。
僕らは“保護”されて、世界から隔離された。
そこからは地獄だった。
知らない人間。知らない世界。知らない“常識”。
ずっと二人だけで過ごしてる僕らを見る、怪訝な目。
だから嫌だったのに。
二人だけの世界なら、余計なことを考えなくていい。お互いのことを愛して感じるだけで、よかったのに。
身内で愛し合うことはこの世界では、罪になるらしい。
更に男同士だったら尚更、嫌悪される。
どうしていけないのか、僕も弟も理解出来なかった。
だから、そこでも僕らはお互いの傷を舐め合って求め合って感じて、快楽を貪り合った。
そしていつからだろう。死に惹かれ始めたのは。
自殺というのは本来の寿命を放棄した重罪で自殺すると、全うしなかった寿命分、彷徨い続けなければならないらしい。
彷徨いに彷徨い続け、そして地獄に堕とされるらしい。
彷徨い続けるんだ、二人で。
二人だけの世界。誰にも邪魔されることはない。邪魔させない。
だから誓い合った。二人で一緒に死のうと。
青酸カリを手に入れて、夜の誰も来ない寂れた公園で、お互いの唾液を交換するように口移しで飲んで。
そう、苦しくなんてなかった。気持ちよさと喜びがあるだけ。
やっと、二人だけの世界に行ける。
そう思ったのに。
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