かぐや皇子は地球で十五歳。
 2週間前の下校途中───────

「眞鍋さんて思ってた通り、普通の女の子で安心した。」
「ふ…ふつう?」
「うん。私……転校してすぐ、初めて図書室で眞鍋さんを見掛けた時からずっと友達になりたいなって思ってたの。掲示板に貼られてた3年のクラス名簿の中に眞鍋さんの名前をみつけた時、凄く嬉しかった。でも教室で眞鍋さんをみつけた時、誰も話しかけるな!って雰囲気で、なかなか声をかけられなくて……なのにさ!湯浅くんが易々とその壁ぶち破ったでしょ。あんなストーカー男子と話せるくらいなら、私とも話してくれるかなって思ったの。勇気を出して話しかけて良かった!眞鍋さんは性悪女じゃなかった!」
 
 煉瓦道を下りながら、私はホロリと涙を溢してしまった。初めて話しかけられた時、私トイレに逃げ込んだのに。大した会話もできぬまま先に教室へ戻ったのに。バイバイも言わないで帰ったのに。今日だって、湯浅くん経由じゃなきゃ話せなかった。会話にうまく入れなかった。話した内容も覚えてない。それなのに、慶子は普通の女の子だって言ってくれた。
 瞳の色がおかしいとか、怖いとか思ってごめんなさい。慶子も私も、友達が欲しいだけの普通の女の子だったんだ。
 
「今日の午後、月に一回のお誕生会があるの。ケーキがでるんだよ、よかったら一緒にこない?」
「え……いいの?」
「すっごく疲れるから無理強いはしない!」

 その日誘われるがままに参加した保育園のボランティアは、確かにすっごく疲れた。子供に色んな所を引っ張られるわ、お尻撫でられるわ、踊るわ歌うわ。やっとお遊戯の時間が終わったと思ったら、大量のケーキとジュースの準備に洗い物、クラッカーや飾りの後片付け。

「ごめんね、目一杯働かせちゃった。」
「ううん、大丈夫!」

 だって、すっごくすっごく楽しかったの。
 子供達と一緒に遊ぶなんて初めての経験だったし、保母さんも園長さんもみんなみんな優しい。そもそも友達がいない私にはお誕生会そのものが感動的だった。それに傍にはいつも慶子がいて、遊び方や準備を教えてもらう間にいつの間にか普通に喋れるようになってた。
 それがすっごく、すっごく嬉しかったの。
 保育園で働く慶子は保育士にも子供達からも人望厚く、本当に子供が好きなんだなぁと納得するほど優しげで、生き生きとしていた。

「眞鍋さん、コーヒー飲める?」
「うん、ありがとう。」

 片付けが終わり、慶子が淹れてくれたコーヒー片手に給湯室で寛げたのは夜6時。日が沈みかけているのに、慶子は「延長保育の子達がいるから」と私を送り出した。

「眞鍋さんのこと、名前で呼んでもいい?転校生だけに呼び捨てにさせるの気に食わないから。私のことも、慶子でいいよ?」
「け、慶子……うん、もちろん!慶子って湯浅くんのこと異常に目の敵にしてるね。」
「うん!何かあいつイラッとする!」

 保育園の正門前、薄明るい街灯が照らす歩道で慶子が手渡してくれたのは勾玉型の暗青色の水晶。

「これ、カヤナイトっていう石なの。私のお守り。ひとつあげる。」
「え…?いいの?」
「変な宗教とかじゃないよ!この水晶はね、心を落ち着かせる浄化のパワーがあるんだって。疲れた時や嫌なことがあった時、何となく癒される気がして持ち歩いてるんだ。」
「大切なもの……なんじゃないの?」
「もうひとつ同じのがあるから。友達の標しってことで…な、なんか恥ずかしいけど。」
「嬉しい…!ありがとう!」

 初めての友達。初めて友達と過ごす放課後。初めてのお揃い。
 にっこり笑って私に手を振る慶子は、それはそれは女神様にみえたのです。



< 16 / 58 >

この作品をシェア

pagetop