溢れる蜜に溶けて
夏休みが始まり早一週間。
一ヶ月近くある長い休みを埋める予定は、つい最近始めたばかりのコンビニのバイトと、花火大会だけだ。
家路に着いた途端、深いため息が途切れることなく宙を舞う。
うう。あんな悪いタイミングで遙くんに会うなんて最悪です。地獄です。
バイトをしてる、なんてついつい口走ってしまいました。
自室にすぐさま入りベットに軽い体を投げると、髪が頬や指先を掠めた。
高校一年生の夏休み開始時点で遙くんに会う。
それは難しいテストの問題とか、苦手なトマトを食べることよりも、もっともっと辛くて、苦くて、胸がきゅっと痛い。
毛嫌いとまでは行かないけれど、私は遙くんが苦手なんです。
だって、だって――
「おい」
ひくっ、と上擦る涙声と共にドアノブを回す音。咄嗟に起こした体。前髪から覗かす姿。揺れる瞳を奪う人。
トゲを含んだ口調に、また視界が潤んだ。