世界を濡らす、やまない雨


部屋に入ってきた母は、私の前に進み出てくると姿勢を正して座る。


「杏香。あなたの同級生に辻井さんっていたわよね」

「辻井って……、辻井 佳乃……?」


その名前を聞いてすぐに思い浮かんだ顔は、佳乃だった。


ひさしぶりに聞くその名前に、胸の奥にしまっておくことに決めていた記憶が甦る。


「そう。やっぱり、そうよね。杏香、中学のときに仲良かったでしょ?年賀状だってきてたことあるし、絶対聞き覚えのある名前だと思ったの」

「そうだけど……その子がどうしたの?」

母の言葉に、できるだけ平静な顔をして答える。

けれど、なぜ母が突然佳乃のことを尋ねてきたのかがわからない。

中学三年生のとき、いじめにあっていた佳乃から目を逸らしたこと。

それが今頃になって母の耳に伝わったのだろうか。


そんなことあるはずもないのに、手の平に嫌な汗をかく。


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