Octave~届かない恋、重なる想い~

「私の長年の片思いに気づいていたお父さんは、雅人さんとホワイトボードで筆談をしていました。どうやら、私のことを頼む、という内容だったようです。

 面会時間がそろそろ終わるころ、雅人さんをお見送りして、一緒に帰るよう指示されたのですが、今考えると、お父さんなりに『キューピッド』役を果たそうとしてくれたのだと思います。

 それがきっかけで、雅人さんとのお付き合いが始まり、我が家の窮状と私の気持ちを理解してくれた雅人さんが、こう言ってくれました。

『俺が宇佐美雅人になって、君と家族を支える』と。


 私は雅人さんの生い立ちも、今までの経験も、全て理解しています。

 雅人さんも我が家が置かれている状況を理解した上で、私に結婚を申し込んでくれました。

 私達のことを、政略結婚だと勘違いされている方もいらっしゃるかも知れませんが、私は十年も前から雅人さんが好きでした。

 結婚式も新婚旅行も全て後回し、いきなり政治の世界へ飛び込んでくれることも厭わず、私達を救ってくれた雅人さんに、私は入籍後もずっと恋しています。

 お父さんとお母さんのように、病める時も健やかなるときも支えあえる夫婦になるため、お互いを尊重しながら温かい家庭を作っていきたいと願って……」


 便箋から目を離し、雅人さんを見つめる。

 一瞬、眼が潤んでいるように見えたけれど、きっと気のせいだろう。

 今まで見たことのない、子どものような無邪気な笑顔を見せてくれたから。

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