明日なき狼達
「会長、あの男をどうするおつもりで?」

 郷田に聞かれた滝沢は、ゾッとするような不気味な笑みを浮かべた。

「命迄は取るな。いろいろと聞きたい事もあるし、ああいう男が何処迄堕ちて行くか見てみるのも、ちょっとした余興だからな」

「判りました。どういうふうに致しましょうか?」

「ああいう男の心を折る方法は意外と簡単なものなんだよ」

 そう言うと、滝沢は机のインターホンで人を呼んだ。

 暫くすると屈強な黒人の男が三人入って来た。

 滝沢は男達に目配せすると、その男達は目に喜色を浮かべ、出て行った。

「何を命じたのですか?」

「奴らはバイセクシャルでな。後は言わんでも判るじゃろ」

 郷田は背筋に悪寒を感じた。

 滝沢という男の異常性に触れ、郷田は顔をしかめた。

「郷田君、一時間程したら、あの男を尋問したまえ。恐らくあの連中の居場所を簡単に吐く筈じゃから」

「判りました……」

 傭兵として海外の紛争地へ何度か赴いた経験から、あらゆる残酷な拷問の場面に出食わして来た。

 戦いの中で敵を殺す行為に関しては、何ら躊躇しないだけのものは持てるようにはなったが、無抵抗な者をいたぶる事に関しては、拒絶感を抱く郷田であった。だが、金で雇われている以上、ある程度は雇い主の意向に従わなければならない。

 黒人の男達が部屋を出て行ってから一時間以上経った。

「そろそろいい頃じゃろ」

 滝沢に促され、郷田は澤村を監禁している部屋へ向かった。

 部屋の前に立ちながら、郷田は何故か澤村が耐えてくれてる事を願っていた。

 一瞬しか対峙していないが、本物の戦場で命のやり取りをして来た郷田は、澤村に戦う者として何かを感じていた。敵と味方……そんな単純な括りでは片付けられない何かを澤村から受けたのであろう。

 防音が施されている厚い扉をゆっくりと開けると、うめき声と怒声が響いて来た。

 声は澤村のものであった。

 中の光景は見るに耐えれない程、悍ましいものだったが、血まみれの澤村が、黒人達に凌辱されながらも、反抗の意志を見せていた事に、郷田は満足感を憶えた。

 この男は堕ちない……

「Stop!」

 郷田の声が響いた。

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