明日なき狼達
第四章…狼達の咆哮

習志野

 自衛隊OBという事もあり、児玉が駐屯地内の見学を申し入れると心良く受け入れて貰えた。

 駐屯地内には様々な訓練施設があった。パラシュート降下訓練用のタワーが敷地の中で一際目立った。更にはフィールドアスレチックスのコースみたいに障害物だらけの野外訓練施設。

 隊員達がそここで訓練をしている。引率の自衛官が一つ一つそれを説明している。だが、誰一人としてその話しに耳を傾けてはいない。

 作戦の全ては児玉に任せてある。全員が児玉に自らの運命を預けた。

 あれだけ別行動を主張していた梶が積極的な立場に変わった事から、加代子迄もが乗り気になった。尤も、乗り気というより、彼女の場合は自分が一人取り残されるのが嫌だったといった理由が一番かも知れないが。

 一通り訓練施設を見て回ると、引率の自衛官が、宿舎の食堂で自衛隊の野戦食が食べられるますからと言った。

「久し振りに野戦食の缶詰を食べるのもいいものだが、もう少し見て回ってからでも宜しいかな?」

「ええ、それは別に構いませんが、見て回れる所は全部回ってますけど……」

「最後に射撃場を見学したいのですが」

 射撃訓練場の側に武器庫はある。

「この時間は確か射撃訓練はやっていないと思うのですが」

「別に実際の射撃が見れなくてもいいんです。どんな場所で訓練しているかが判ればいいんです。私は大丈夫だが、この人達は実弾射撃を目にしたら、余りの迫力に心臓麻痺を起こしかねない」

 児玉の作った笑いがその場を覆った。

 他の皆も冗談を言って、これから起こる事への緊張を解そうとした。

 広い敷地の外れに実弾射撃訓練場があり、幾つか並んだ建物の一つが武器弾薬庫になっていた。

 敷地内移動用のカーゴから降り、見学をするふりをする。

 集団からやや離れて、松山がそっとケータイで、外で待機している浅井に連絡した。

「今、予定地点に来ました。思った以上にフェンスから距離がありますね」

(判りました。こちらも予定通りスタンバイしてます)

 児玉が松山の方を見た。そっと頷く松山。

 それを見た他の者達に緊張が走った。

 児玉は笑みを浮かべたまま自衛官の背後に回り、気付かれないように腕を首に掛けた。

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