明日なき狼達
 児玉の横に加代子が座ると、浅井が、

「ちょっと外の様子を見て来ます」

 と言ってその場を離れた。

「あら、あの男、こんな婆さんと爺さんのカップルに気を使ってくれたのかしら」

「私は爺さんですが、加代子さんはまだまだお若いですよ」

「あんたからそんなお世辞が聞けるとは思わなかったわ。ところでさ、あたしは何をすればいいのさ」

「加代子さんは残って下さい」

「そうはいかないわよ。元はあたしの事がきっかけなんだから」

 児玉が答える前に、そのやり取りを見ていた野島が、

「加代さんは非戦論者じゃなかったのかい?」

 と話しに割り込んで来た。

「あたしが何時非戦論者になったのよ」

 ぶつくさ言う加代子を宥めながら、児玉が説明した。

「加代子さんの代わりに武器を持って行かなければならないので」

「どういう事よ」

 児玉の考えはこうだった。

 武器を全員に携帯させたまま、滝沢の根城に乗り込む事は不可能に近い。

 浅井が組の指示で児玉達を捕らえた事にして連れて行かれる訳だから、捕われの姿でいなければならないからだ。

 加代子は連れて行かず、担架を一つ作り、それに奪った武器を乗せる。上に毛布を被せ、人が寝ているようにカモフラージュをする。

 加代子は怪我をしてるとか、死んでるとかにすれば辻妻は合う。

「それに、加代子さんには別な役割を頼みたいんです」

「別な?」

「ええ」

 児玉は加代子の耳元で囁いた。

 その光景を他の者達がじっと見つめている。

 児玉の言葉に一言一言頷く加代子。

「判った、判ったけど、本当にそんな事出来るの?」

「加代子さん次第だ」

 野島達の八つの目が、加代子に大丈夫と言っているようだ。

 皆は既に事の次第を児玉から聞かされているようだ。

「こんな婆をこき使うなんて、あんたも酷な奴だよ」

「姐御、俺達だって爺だぜ」

 部屋に笑い声が起きた。



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