明日なき狼達
 一つ目の生け垣を跳び越し、用水路を渡り、最後の生け垣を跳ぼうとした時、20メートル程前方に数人の男達がカーゴに乗り込もうとしているのが目に入った。

 郷田は躊躇う事無く引き金を引いた。


 ヘリコプターからの銃撃を避けながらカーゴ迄辿り着いた。

 松山が真っ先に運転席へ飛び乗った。

 怪我をしている浅井と澤村をカーゴの後部座席に乗せ、最後に神谷と児玉が乗り込もうかという時、生け垣越しに銃弾が飛んで来た。

 児玉の腰と右膝に衝撃が走った。ガクッと崩れた。神谷が駆け寄ろうとするのを児玉は押し止めた。

「構わず乗るんだ!」

 カーゴから浅井と澤村が拳銃で応戦する。

 児玉を撃った男は真っ直ぐカーゴに向かって来る。こちらの銃弾など絶対に当たらないとでもいうかのように。

 ヘリコプターからのサーチライトでその姿がはっきりと浮かび上がった。

「郷田ぁ!」

 男の撃つ弾はカーゴの中にいた澤村の額を掠め、浅井の防弾ジャケットを直撃した。

 児玉の拳銃から放たれた一弾が、郷田の身体を躍らせた。崩れそうになった身体を踏み止め、郷田はまだ射撃を止めない。

 郷田と児玉の距離が5メートルとない距離に縮まった。

 前のめりになる児玉。

 拳銃の弾を撃ち尽くした郷田はナイフを抜き、児玉を刺そうとした。僅かなタイミングで児玉がそれを交わす。

 郷田がもう一度ナイフを振りかざした瞬間、鈍い衝撃音と共に血が降り注いだ。

 郷田はそのまま倒れ込んだ。松山の放った一弾が致命傷を与えたのだろうか。

 神谷が児玉の身体を抱き、カーゴの後部座席に担ぎ上げた。乗り込んだと見るや否や、松山は思い切りアクセルを踏み着けた。


 意識が飛んだ。

 痛みには慣れている。

 エクアドルやコンゴ、イラクでも無傷では無かった。

 身体中に無数の傷痕が残っている。

 又何個目かの傷が増えただけだ。

 そう思いながら、郷田は手を何度か開いたり握ったりした。

 大丈夫だ。

 力は入る。

 それにしても油断した。

 奴らを一度ならず二度も仕留め損なうとは……

 ヘリコプターの爆音が近付いて来た。生け垣に手を掛け、身体を起こし、ヘリコプターを見上げた。
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