明日なき狼達
「尚武会からそう言って来てるのか?」

「ああ」

「間違い無いんだな?」

「直接俺んとこに電話があったんだ。尚武会だけじゃねえ、親栄会、白石組、共友会、でかいとこも小さいとこも、皆なあいつらで銭儲け出来るってんで血眼なんだぜ。俺達だけがいい子ぶって匿ってやっても、一銭にもならねえんだぜ」

「滝沢に売って幾らになるんだ?」

「一人につき一億とも十億とも言われてるらしい」

「十億……」

「浅井とかとの縁にしたって、たかが刑務所で世話になっただのって言うだけなんだろ?所詮は組違いの外兄弟程度のもんじゃねえか」

 その場に居た全ての者が頷き合っている。

「判った……誰か滝沢秋明の連絡先を知ってる奴はいないか?」

 一人の男が知り合いに滝沢の所に出入りしてるのが居るから、そいつに聞いてみると言ってケータイを取り出した。

「そちらでお探しの顔触れですが、今、うちにおります……はい、判りました……いいえ、とんでもないです。で、一応、この件の報酬なんですが……そうですか、判りました、いえいえ滅相もない、ありがとうございます……じゃあ、こっちで見張ってますんで……」

 男はケータイを切り、全員に目配せをした。





 その頃、滝沢は自分の警備会社の社長室に居た。

 秘書が部屋に入って来て滝沢に耳打ちをした。

「見つかったか、そうか……今度こそきちんと始末させなさい。ところで郷田からはその後連絡は無いのか?」

「はい」

「仕方無い、警備主任を呼んでくれ」

「判りました」

 三分後、警備主任が滝沢の前に現れ、彼から一言二言指示を受けると部屋を出て行った。

 次に滝沢は、何箇所か電話を掛けた。

 初めに掛けた先は神奈川県警本部だった。

「寿町が少しばかり騒がしくなると思うが、何も心配しなくとも宜しいから、所轄署には映画の撮影か何かだとでも言って置いてくれ。頼んだよ」

 二本目の電話は、警視総監宅であった。

「やっとケリがつけられそうですよ」

(それは良かった。そろそろおしまいにして頂かないと、流石にこちらとしても動かざるをえなくなりますからな)

 三本目の電話は、親栄会本部であった。



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